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新発見! 小堀家「御城絵図」

新発見! 小堀家「御城絵図」

新資料がさらに出てきたぞ!

先日取り上げた「村上住居絵図」を入手した際、実はもう一枚、小堀家由来の新資料を入手しました。「御城絵図」とタイトルがつけられた以下のような絵図です。外袋と絵図本体、そして剥落したと思しき紙片1つから成り、メイン資料のサイズは52×84cmほど。城山を中心とした、いわゆる城門の配置図と思われます。一見、ラフなメモ書き(?)のようにも見えますが、筆者としては村上城研究に新たな光を当てる資料だと思います。マニアックな話が続いてアレですが、以下、気づいた点をまとめてみました。

(おそらく)唯一の「平面図」である!

本資料の第一の価値は、数ある資料の中で(おそらく)唯一、村上城城門の「平面」を描いている点です(※)。村上城の建造物に関しては、「正保の城絵図」をはじめとするいくつかの絵図、明治元年の鳥観図である「村上城城門絵図」、そして正徳年間の実測記録「村上御城郭」(=文字情報)が以前より知られていました。しかし、建物の平面配置を描いた資料は一つもなく、建物同士の細かな接続関係を特定するには至っていませんでした。例えば、現在も石垣 の一部が残る下渡門について見てみるとこんな感じです。

…うむ、それぞれ内容が一致しない上に、肝心なところがよくわからん(痛)。しょうがないので、不明部分については他城郭を参考に「それらしく」推定した3Dモデルを置かざるを得ませんでした。ところが、今回出てきた「御城絵図」は、下渡門を以下のように記しています。

既存資料をもとにした当サイト推定案と比べてみると、建物相互の位置関係はおおむね一致するものの、下渡門本体と北・南多聞の接続状況、西多聞の引っ込み具合(?)が異なるようです。また、「御城絵図」の描写を細かく見ると下渡門本体と北・南多聞の間に若干の隙間があるのがわかります。ひょっとすると、門本体は両袖を石垣上に載せない独立形式だったのかもしれませんね(仮にそうだとすれば、門本体と南多門の間にわずかに塀を描く正保図の描写の意味が理解できる)。

勿論「御城絵図」の記載が無条件に真実とは限りませんが、全く情報がない部分を埋められた意義は大きいと思います(それにしても、この多聞櫓の形状・配置は妙である。こんだけ凝った構造にする余力があるなら、高麗門1つ建てたほうがよっぽどお手軽に防御力上がるんじゃないか??)。

建物入り口に「庇」がついていた?

小堀家「御城絵図」に描かれた、庇らしき突出部

2つ目のポイントは、各建物の入り口らしき箇所の描写です。城門や多聞にはそれぞれ入り口があったはずですが、それがどのような形状をしていたのかはイマイチよくわかっていませんでした。ところが「御城絵図」の各城門の中には、小さな突出部が描き込まれているものがいくつかあります。これが平面図とすれば、庇のような構造物が飛び出していたと考えられます。

ちなみに、山頂部の靱櫓跡や出櫓跡の地中からは、発掘調査により建物入り口に付随する「踏み石」の痕跡らしきものが検出されています。城下の城門も同一意匠で築かれていたとすれば、「踏み石+庇」が村上城の標準的な入り口意匠だったのかもしれません。

「一文字門からの距離」と略された道路表記の意味は?

3つ目のポイントは各城門ごとに付された注記です。それぞれ、山麓居館の正門「一文字門」からの距離が記されており、以下のような情報が読み取れます。

また、本絵図の道路描写も独特です。本来郭内には複雑に街路が張り巡らされていたのですが、本絵図においては大部分が省略され、各城門と一文字門を結ぶ「最短ルート」のみが記されているようです。文字情報の特徴と合わせて考えると、城外に藩主が出る際に、移動ルートを検討するのに使用したのかもしれません。この辺りは、小堀家が間部家中で果たしていた役割を明らかにすることで、もう少しクリアになってくるでしょう。

以上、素人目線ではありますが「御城絵図」の特徴についてまとめてみました。一見、ラフな絵図ではあっても、他の資料と比較することで、弱点を補ったり、新たな知見が得られそうな気がしています。原本を村上市に寄託するとともに、高解像度スキャン画像をダウンロードコーナーに置いときましたので、ご興味のある方はぜひ見てみてください。

  
出典
「正保の城絵図」(1644年):国立公文書館所蔵
「村上城城門絵図」(1868年?):平野邦広氏所蔵
「村上御城郭」(1711年):村上市『お城山とその周辺整備基本計画』(1992)所収より一部抜粋

※「内藤侯治城明治維新時代村上地図」が建物平面を描いてはいるのだが、描写が概して記号的であることや、サイズの問題から、個々の建物の詳細な構造を見るのは難しい。

(初稿:2020.02.01/最終更新:2020年02月10日)