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3DCGで見る町人地の景観変遷(2)

3DCGで見る町人地の景観変遷

平成(1990~2010年代)

仮想村上町 平成

というわけで平成期の風景である。バーチャルな割に妙な既視感を覚える(?)が、ここへ至って街並みの印象は大きく変わった。

まず、高度成長期以前に立案され、バブル期以降に遅れてやってきた道路拡幅&直線化工事によって正面のT字路が消失。アイストップがなくなり随分先まで視界が抜けた。現実世界で旧札の辻のT字路(大町交差点)が十字路化されたのは1990年代の前半であったが、その時はコドモながらに「町がスカスカになった」ような印象を受けた記憶がある。また、画面右手においても、過疎化の進行による空き地の発生や、セットバックを伴う建て替えが加速。いわゆる「歯抜け化」の進行により街並みの連続性が失われつつある状況である。ハウスメーカー系住宅や鉄筋の建物も建ち始めたようだ。

実は、この時点においても4棟の江戸時代の建造物が(改造はされつつも)CG内には残っているのだが、視覚的なインパクトは意外に少ない。「ツライチで連続する正面ファサード」「適度にアイストップとなるT字路や食い違い街路」といった空間構造のほうが、個々の建物の意匠以上に「城下町らしい」イメージ形成の根幹にはあるように思う。

令和X年(2030年ごろ?)

仮想村上町 令和X年

最後にオマケ的に製作してみたのが、歴史性重視のまちづくりが継続され、それなりに修景が進んだ状況を想定した令和X年(2030年代ごろ)の風景である。「村上の町屋と町並み景観」(2003)所収の修景案を参考にはしたものの、筆者は建築の専門家ではないので、精度はせいぜい「イメージ図」程度である。

江戸時代から残る6間間口の建物は、2Fの連子格子を復活させた上で、カフェスペースとして改装した。あくまでも生活・商売の場としての存続が前提なので、江戸期の状態に「復元」するのではなく、店舗としての機能を考慮しつつ改造した設定である。同時に、一番手前の鉄筋の建物は、昭和初期のカンバン建築風に再改造した。窓枠に明治末~昭和初期のデザインを復活させることで、歴史的連続性に一応は配慮したカタチである。さらに、道路から主屋をセットバックした建物や空き地には、下屋風シャッター(?)を装備させたり、板塀で塞いだりしてみた。ブツ切りになった正面ファサードの連続感も、これで少しは解消されるハズである。

欲を言えば、正面の十字路を何らかの形で塞いでアイストップも再生したかったのだが、一度作られた道路を潰すのは流石に現実味がない。そこで、拡幅時にテキトーに植えられた街路樹を、当地の旧街道沿いに見られたアカマツに変えることで、歴史性を踏まえた街路景観を形成することとした(大きく育てばアイストップとして機能するようになるだろうし)。

修景をどう考えるか?

以上、3DCG「仮想村上」を通して150年にわたる景観の変化を追ってみた。正面図の変遷と一応の設定を以下に示すが、通して見ると、幕末以降の景観変化は意外と大きい。「城下町らしい」と言われる村上の景観であるが、実際には藩政期以降の建物も含めた重層的な景観要素の上に、そのイメージは成立しているわけだ。

仮想村上町 正面図の変遷

で、最初の問いである「修景の可能性」に立ち返ってみよう。「修景」=「かつての街並みの復活」的に解釈すれば、現在の街並みをある特定の時代を想定して「復元」するということになろう。だが、2002年に行われた日本ナショナルトラストの調査によると、旧町人地の建造物のうち、歴史的建造物の割合は約28%。その中には当然、江戸時代のものから昭和前期のものまでが混在している。これらを残り72%の非-伝統建築と合わせて、特定のある時代「風」に改造したところで、それはかえってニセモノの街並みを画一的に形成することになりはしないだろうか? 同報告書が指摘する通り「街並み修景は江戸時代や明治時代の街並みに戻す行為ではない」はずである。筆者個人としては「修景」=「歴史性を尊重しつつ現代の街並みを『城下町らしく』磨く行為」くらいの捉えのほうが妥当な気がしている。

実際、村上市景観計画にいては、ある程度の幅を持たせた「景観形成基準」が提示されており、2019年からスタートした修景補助事業においても、個々の修景は「原則とし個々の建造物の外観特性に配慮しながら個別協議により判断」としている。多くの工事を地元工務店が担っていることもあり、現在のところうまく機能しているように思うが、今後、修景建物が面的に連続する箇所が生じた際に、リアルな町としての自然な「バリエーション感」が確保できるかが問われるはずだ(先に示した「令和」の風景も、もっと昭和や明治くらいの修景イメージがあってもよいかもしれない)。各時代の意匠を生かしつつ、「面的」かつ「歴史の重層性」を考慮した修景が、今後は重要になってくるのではないかと思う。

(初稿:2020年06月07日)

参考文献
 日本ナショナルトラスト『村上の町家と町並み景観』(2003)
 村上市郷土資料館『堀田金五兵衛図絵の世界』(2013)
 村上市「村上市史 通史編」(各巻)
 新潟日報事業者「思い出ほろろん 村上編」(1998)
 村上市「村上市景観計画」(2013)
 村上市「歴史的風致維持向上計画」(2016)
 村上市観光協会ウェブサイトより「古写真に見る大正時代の村上(1)~(10)
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