ビジュアル再現 村上城 ~3DCGでよみがえる村上城~ ロゴ
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村上城下の町屋の意匠について

村上城下の町屋の意匠について

資料に乏しい町屋の意匠

3DCGを用いて寛文期の村上城下を再現した「電影村上城」のコーナーを作成するにあたり、実は、城郭建築以上に難題となったのが城下の町屋の意匠に関する考察です。

意外に思われるかもしれませんが、一種の「公的建築物」であった城郭建築や寺社仏閣の場合、維持管理のための絵図面や実測記録がそれなりに残ります。これに対し、いわゆる「民家」である一般建築物に関しては、詳細を記録しようという動機がそもそも働きません(現代においても、自宅を図面化して保存している人はかなりレアでしょう…)。「洛中洛外図」の対象となる江戸・京都のような大都市を除けば、地方都市の民家に関する文書資料は極めて限られるのです。

そんなわけで、2008年に最初のバージョンを作成した際は、村上に現存する江戸末期の町家や、近隣の北陸地域の町屋の意匠を参考に、以下のような町屋ベースモデルを作成、これをコピーして城下町部分を再現しました。建物の間口に差はつけてみたものの、当時の動画を見ると、なんだかワンパターンな街並みになってしまった観は否めません。

村上城下の町屋3DCG。2008年バージョン。

「堀田金五兵衛図絵」の発見で状況が一変!

ところが、それからわずか4年後の2012年、状況を一変させる新資料が発見されます。城下の商家に伝えられてきた「堀田金五兵衛図絵」が公開されたのです。(同史料を全収した「堀田金五兵衛図絵の世界」が郷土資料館で販売中)

詳細な解説は省きますが、この資料は、延享2年(1745)~文政11年(1828)に活躍した、村上城下の商人・堀田金五兵衛の一代記を、大正期の子孫が絵師・豊島停雲に依頼し、24枚の彩色画と跋文で表現したものです。「故実に則る」ことを旨とした豊島停雲の手によるものだけに、その描写は極めて精密。これまでほとんどわからなかった城下の一般家屋はもとより、武家屋敷や城門の姿まで克明に描かれています。

城下町は意外と派手だった!?

というわけで、本図を参考に、2017年バージョンの3DCGでは町屋モデルを全面的に見直してみました。ムービー用に軽量化したモデルなので、細部は結構いい加減ですが、主な改良ポイントは以下4点です。

村上城下の町屋3DCG。2017年バージョン。

1)暖簾、看板類の追加
大店はもとより間口3間程度の小さな商家でも、屋号を入れた暖簾をかけたり看板を掲げたりしていたことが分かりました。特に目を引くのが、路上に出された行燈状の看板や、高い柱の先から提灯状の物体(?)を掲げるタイプの大型看板。江戸中期ともなると、どこの藩でも倹約令がうるさくなってきます。村上城下も彩度の低い町並み(?)だったのかと思いきや、図絵からは多彩な工作物や色彩があったことが読み取れます。

2)商家は開放的なつくりだった
降雪地で冬場の季節風も厳しい地域であることを踏まえ、以前の3Dモデルでは1Fのミセ部分は、格子窓を主体とするどちらかというと閉鎖的な構造にしていました。しかし、実際には開口部をかなり大きくとった家屋も多く、特に大店では戸板を取っ払って全面開口とするケースもあったようです。また、CGでは再現していませんが、武家の出入りするお店では式台玄関を備えた建物もあったようです。

3)2階建ての町屋が主流だった
村上に現存する江戸期の町屋の中には、道路に面した側に2階がないお宅もあります。「2階から武士を見下ろさないよう建築制限が課されていた」という伝承もあるため、従来は、江戸期の町屋がどの程度の割合で2階屋だったのかについては推測によるしかありませでした。
ところが、「堀田金五兵衛図絵」に描かれた町屋はことごとく2階家です(実際は厨子二階の建物も多かったと思われる)。また、2Fに格子ではなく「まくり戸」(北陸でよく見られる一部が障子になっている雨戸)を用いた建物も相当数あったことが伺われます。

江戸東京博物館に展示されている寛永年間のジオラマ

4)屋根材のバリエーション
明治~昭和初期の古写真を見ると、村上のほとんどの町屋は石置き屋根です。延享~文政(1745-1828)年間の様子を描いた「堀田金五兵衛図絵」においても、多くの町屋が石置き屋根で描かれていますが、CGの設定年代はそれからさらに80年ほど遡った寛文年間(1660年代)です。
そこで、比較的設定年代が近い、江戸東京博物館の寛永年間(1620-40年代)のジオラマを見てみると、建物の多くは瓦葺きではありません。石置き屋根のほか、長板葺き、杉皮葺きなどの多様な葺き方で植物性材料が使われていたことがわかります。おそらく村上も同じような状況だったでしょう。
今回のCGリニューアルにあたっては、「植物性材料の描き分け」を意識して設定を見直しました。石置き屋根のほか、長板葺き、こけら葺きなどの家屋も一定数あったと想定して作り直しています。

資料ひとつで考証が変わる!

今回は町屋の意匠について取り上げてみました。以下に(ほぼ)同一位置から眺めた2008年バージョンと2017年バージョンを並べてみましたが、町の印象がずいぶん変わったことが伝わるでしょうか???

1枚の絵画資料が出てくるかどうかで、シロウト目線でも考察すべき内容や、そこから浮かび上がってくる城下町像は変わってきます。このあたりに柔軟に対応できるのもCGの強みではあるので、新たな資料の発見に期待しつつ(!)柔軟にデータを更新していこうと思っています。

村上城下の町屋3DCG。2008年と2017年バージョンの比較。

※「堀田金五兵衛図絵」の解釈に関しては、村上市郷土資料館の桑原様、板垣様、村上市生涯学習課の竹内様に大変お世話になりました。この場にて改めてお礼申し上げます。

(初版:2017.09.03)