大手線修景案(2)
まずは中央公民館前からだ!
では、早速現地写真をもとに修景をスタートする。先述のように修景のカギは、「市民のカンパ程度の予算でできるかどうか」である。よって、道路の路面、ブロック塀、石積みといった既存の建築要素はそのまま生かすものとし、建造物を加えるとしても、簡易工法で可能なもののみを加えることとする。
また、工事は専門業者ではなく、市民参加等のボランティアを主力にすることとする。よって、素人でも簡単に作業できるような工法を採用することもまた前提条件である。
■黒塀による修景案
もともと家老屋敷であったことを示すため、武家地らしい黒塀を簡易工法で再現する案である。この工法が低コストで成立することは「黒塀プロジェクト」(※)により既に実証済みであり、実現可能性は十分高いであろう。実際の工事にあたっては、塀の土台となる木組みのみは、伝統工法に詳しい地元の建築業者の協力をあおぐこととし、板の一枚一枚の塗装、貼り付けを市民ボランティアでまかなうことになろう。
ただし、この案において重要なのは、塀の意匠を町人地のそれときちんと差別化することである。そうでなければ「ここからは武家地」というメッセージがきちんと伝わらず、道の先に対する期待感を醸成することは不可能であろう。右の修景案では、塀の上に簡単な屋根をかけているが、このあたりは地元の伝統工法を踏まえた上でより詳細に詰めていく必要があろう。
■杉生垣による修景案
村上の武家屋敷では、伝統的に屋敷地の区画を杉生垣で行っている。この伝統に則り、杉生垣での修景を試みる案である。杉の苗木代くらいしかコストがかからないことに加え、塀につきものの落書きによる被害も回避できるので、なかなか魅力的な案といえよう。
ただし、この案においては、植樹後の維持・管理が問題となる、もちろん、黒塀の場合も事後の手入れが不可欠であるが、生垣は生物だけに、定期的な剪定や雑草の駆除など、かなり労力のかかりそうな作業を継続的に実施せねばなるまい。
また、村上の武家地の意匠が杉生垣であることは、地元の人間にとっては自明のことであるにしても、外部の観光客等にもそれが伝わるとは限らない。確かに美観としては優れていても「きれいな生垣のある通り」と見えてしまっては、誘導路としての機能は期待できまい。
村高旧門舎との調和はOK?
さて、前のページまで、旧町人地側から通りを見た場合の修景案であったが、実はこの通りの途中には、右に示したような、旧村上高校の門舎が残っている。
昭和初期に建てられた擬洋風建築のこの建物も、それ自体貴重な歴史的建造物であるため、修景案はこの建物を抜きには考えられない。このページでは黒塀案と杉生垣案のそれぞれについて、景観と調和するかどうか検証してみたい。
■黒塀による修景案
洋風建築、しかもレトロな青いペンキ塗りの建物に古風な黒塀が似合うかどうか不安であったが、案外すんなりと落ち着いたのは意外であった。レンガ造りの門も、黒塀と相まって風格を増したように思われる。
現在、この建物が何らかの活用をされているのかどうかは分からないが、ちょっと修復すれば、臨時の観光案内所ぐらいには機能するのではなかろうか。実際、後ろに見える市役所の駐車場は、買い物客や観光客の主要な駐車スペースとなっている。駐車場の出口にこうした施設があれば一石二鳥だと思うのだが…。
■杉生垣による修景案
水色の塗装と杉生垣の深い緑が相まって、美しい景観となった。昔そこに学校があったことが、彷彿とされる景観である。
ただし、景観的な調和度は高いものの、問題はそれが「レトロな洋風建築」感を一層増幅する方向に向いてしまっていることだ。どうも生垣と組み合わせると、門舎の存在感があまりにも勝ってしまうようだ。「大手門跡」という立地条件を踏まえると、やはりどこかしら武家屋敷地っぽい感じが出ないのはまずいのではないかと筆者は思う。
まとめに代えて
以上、「実現可能性の高さ」という観点から、2パターンの修景案を示してみたがいかがであったろうか? 限られた予算であっても、意外に景観向上効果の高い取り組みができそうなことを感じていただければ幸いである。この件については「むらかみ町家再生プロジェクト」さんのHP(※)で、計画の詳細、及び修景方針に関わる投票や意見募集を行っているので、興味のある方はぜひそちらも見ていただきたい。