ビジュアル再現 村上城 ~3DCGでよみがえる村上城~ ロゴ
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傾斜量図で見る城跡

傾斜量図で見る城跡

国土地理院の「傾斜量図」で城跡を見る

歴史・地理関係の趣味をやる上で必要不可欠なツール=「地図」。一般的な用途であればgoogle mapが断然おすすめですが、殊、歴史クラスタの住民にとっては、国土地理院が公開している「地理院地図」の機能が侮れません。種類の違う図面をマッピングしたり、古い時代の地図や航空写真を表示したりと、「比べる」系機能が非常に充実しているんですね。要は、マニアックな使い方にはもってこいなわけです。

で、そんな中で筆者が俄然面白いと思うのが「傾斜量図」です。その名の通り、標高の変化=傾斜量が多いところを濃く、平坦なところを薄く表示する…というアレです。(同じ表示概念で作られた「赤色立体地図」は、NHK「ブラタモリ」のおかげですっかり有名になりました。)

さっそく我らが村上城を見てみるとこんな感じ。主要な曲輪はもちろん、藪に埋もれて見えにくい元羽黒八幡山の曲輪配置、中世期の竪堀や堀切までかなり明瞭に確認できます。さらに市街地に目を転じれば、住宅地に埋没して観察が難しい、総構えの土塁や地形痕跡まで捉えられています。通常の等高線表示とはケタ違いの段差把握力(?)を実感できる結果となりました。

傾斜量図で見る村上城跡

下渡城も見てみる

こりゃ面白い…というわけで、近隣の下渡城も見てみます。あまり「城跡」として認識されていないこともあり、結構藪化が進んでいる城跡ですが、やや不鮮明ながら、山頂に東西方向に並ぶ主郭部と、その周囲を取り巻く帯曲輪の存在が確認できます。

この帯曲輪、現地で観察すると、主郭を一周しているのか、東西の一部だけに存在するのか判断が難しいのですが(『新潟県中世城館跡等分布調査報告書』1987,では一周している描写)、傾斜量図を見ると、おそらく同心円状に主郭を一周していたと見て良さそうです。左は筆者が2007年に通常の等高線地図をベースに作成した概念図ですが、傾斜量図と照らしてみると、やや南北方向を大きく描きすぎていたようです。

傾斜量図で見る下渡城跡

山城よりは平城を見るのに向いている?

こんな感じで遺構把握に結構使えそうな「傾斜量図」。未発見の山城なんかも一撃で発見できるんじゃなかろうか…とか思ったのですが、どうもそう簡単にはいかないようです。レーザー測量/写真測量をベースとしている性格上、中山間部まで含めて、全国くまなく鮮明な画像が得られるわけではないからです。

例えば、新潟県北部では大規模な部類である平林城(国指定)や大場沢城(県指定)も、概念的な把握がギリギリ可能…といった精度にとどまります。平林城は、基本的な解像度そのものが足りてませんし、大場沢城のほうは、同城最大の特徴である、50条を超える畝状竪堀群(畝形阻塞)が把握できず、なんだかだらっとした斜面のような描写になっています。このへんは今後の精度UPに期待…といったところでしょうか。

傾斜量図で見る平林城、大場沢城

むしろ現状の利用法としては、山間部よりは精度が出ている平野部で、農地や集落に埋没した平城を見たほうが面白い気がします。通常の等高線表示ではまず地形が読み取れないような場所でも、傾斜量図表示であれば、1m程度の段差があれば捉えられます。

以下は新潟県新発田市の池ノ端城。真っ平な田んぼの微高地上にあるため、通常の表示法では地形はなかなか読み取れません。道路や水路のラインはわかりますが、高低差との対応関係も不明です(左)。これを傾斜量表示(右)にすることで、曲輪や堀跡とおぼしき凹凸がかなり明瞭に確認できます。まあ、現地に足を運べば、地割からある程度の推測が可能な城跡ではあるのですが、下調べ段階でこういったアタリをつけておくことができれば、より効率的に現地観察ができますよね。

傾斜量図で見る池ノ端城

さらなる精度向上に期待

こんな感じで、場所によっては遺構把握にも抜群の威力を発揮する「傾斜量図」。行政予算が厳しい昨今ではありますが、市井の城オタとしてはさらなる精度向上を期待します。なお、2020年度からスタートする次期学習指導要領では、高校段階でGIS情報の一層の活用が扱われるようになる予定だそうです。未来の城オタ育成を考える(?)上でも、こういった地図技術・データ利用の促進は、大きな意味を持つはずです。

出展)図1~4とも国土地理院「地理院地図」(「傾斜量図」表示)に筆者加筆。

追記:スマホ対応アプリ「地理院地図」が登場!(2018.04.15)

大変使い勝手のよい地理院地図ですが、スマホのブラウザで見ると操作が煩雑&動作が遅く、結構使い辛いのが難点。出先でちょっと見よう…という気にはイマイチなれませんでした。

ところが先日より、サードパーティー製のスマホアプリ「地理院地図」がGoogle playで配布されています。いまんとこAndroidのみの対応ですが、本記事で紹介した「傾斜量図」のほか14種の地図表示が可能。おまけに方位磁針表示やタップした位置の標高表示機能までついていているというスグレモノです! 5mメッシュデータを読み込んでいるので、土塁の段差程度なら、それなりの精度が出ているようです。出先の城跡でも、おおまかな地形の確認や標高チェックがはかどること請け合いです!

コレほんとよいアプリだと思いますので、Androidユーザーの方にはぜひおすすめです。iPhone版の登場が待たれます。

地理院地図アプリ

(初稿:2017.10.08/2稿:2018.04.15)